新規事業を展開する事業主の方々にとって最も大切なのは、やはり「コスト」ではないでしょうか。工場や倉庫を運営する場合、なかでも大きな割合を占めるのが「建設コスト」です。使いやすく効率的な工場・倉庫をリーズナブルに建設することができれば、事業の採算を立てやすくなることでしょう。
そこで今回は建設コストに関する考え方や、建設コストを下げるポイントをお伝えしたいと思います。コストを抑えるには専門家の協力が必要なシーンも多いですが、うまくコミュニケーションを取ることで使いやすさと低価格を両立できるかもしれません。ぜひご参考になさってください。
- 1. 新規事業にかかるコストとは?
- 1.1. 建設コスト
- 1.2. 設備費
- 1.3. その他事業費
- 1.4. コストバランスの考え方
- 2. 建設コストとは?
- 2.1. 設計費(設計料)
- 2.2. 躯体工事費
- 2.3. 仕上工事費
- 2.4. 設備工事費
- 2.5. 仮設・管理費など
- 3. 建設コストを下げるには?
- 3.1. 躯体・仕上げ・設備のバランスを工夫する
- 3.2. 事業に必要十分な施設を考える
- 3.3. バリューエンジニアリング / コストダウン
- 4. 建設コストの見積もりが安すぎる場合の留意点!
- 4.1. 基本仕様・性能を確認する
- 4.2. 技術力・モラルを確認する
- 4.3. 安全対策を確認する
- 5. おわりに
新規事業にかかるコストとは?
事業主の方々にとっては説明不要かもしれませんが、まずは新規事業にかかるコストについて触れてみたいと思います。ここでは「建設コスト」「設備費」「その他事業費」に分けて解説します。
建設コスト
建設コストとは、建物をつくるのに必要なコストを指します。建設に必要な材料費や施工費のほか、企画・設計にかかる設計費も建設コストの一部と考えることができるでしょう。建設コストの詳しい解説は次節に譲るので、そちらをご覧ください。
設備費
設備費は、工場や倉庫を稼働・運営するのに必要な設備にかかる費用です。事務に使用するパソコンなどの備品に加え、工場では特殊な製造機械や生産設備が含まれます。設備費に関しては、ランニングコストも含めてコスト計画を立てることが大切です。定期的なメンテナンスをしっかりと計画しておくことで、予算内の運営を実現するだけでなく、効率的かつ安全な施設運用を続けられるようになります。
その他事業費
その他事業費には、土地代(購入もしくは借地)、人件費、水道光熱費、通信費、広告費などが含まれます。その他事業費には膨大な数の項目がありますが、類似施設の前例などを参考にしながら漏れなく予算に組み込むことが大切です。
コストバランスの考え方
建物の用途や規模によって建設コスト・設備費・その他事業費のバランスは異なります。
工場、発電所などの特殊な機械・設備が必要な建物では、設備費が大きな割合を占めることがあります。相対的に建設コストの重要度が下がるため、コストより使いやすさを重視して建物をつくっても事業全体への影響は小さく済むケースも考えられます。
事業計画において大切なのは、コストバランスを意識しながら費用対効果を考えて仕様を決めていくことです。建設会社やメーカーの見積もり協力やアドバイスを得ながら使いやすい工場・倉庫の実現を目指しましょう。
建設コストとは?
建設コストは、主に設計・躯体工事・仕上工事・設備工事・仮設費で構成されます。工場・倉庫は安全性に直結する躯体工事費が大きな割合を占めるため、建設コストの削減が難しい建物といえるでしょう。特に倉庫に関しては「ローコスト建築」として各建設会社がしのぎを削っています。
設計費(設計料)
設計費(設計料)は、建設会社や設計事務所に設計業務を依頼するための費用です。ゼネコンやメーカーに設計施工一貫で依頼する場合は設計費を抑えられる傾向があります。一方、設計事務所に設計を依頼する場合は設計費が高くなることが多いですが、施工時には設計事務所が第三者的視点を持ってくれるのでコストや品質の透明性という観点では安心できるでしょう。
躯体工事費
躯体工事費は柱や梁、床といった構造部材をつくるための費用です。建物の安全性を確保するための建築基準法を遵守する必要があり、設計者・施工者の高度な知識・技術・経験がないと躯体工事費の削減は難しいといえます。工場や倉庫は仕上げのデザインにコストを掛けないケースが多く、相対的に躯体工事費の割合が大きくなります。
仕上工事費
仕上工事費は、外壁、内壁、天井、床などといった内外装の仕上げを行うための費用です。工場や倉庫の使いやすさには関係ないものも多く、削減しやすい項目のひとつです。仕上工事費を削減するための仕様として、安価な外壁、クロスなしの内壁、コンクリート打ち放しの床などが挙げられます。
設備工事費
設備工事費は、水道やガスを通すための配管、通信配線、受電設備といった建築設備工事を行うための費用です。設備機器の高度化や環境配慮指向の高まりにより、設備工事の重要性は年々増しています。工場や倉庫の能力、使いやすさ、働きやすさに直結するため、できるだけコストをかけて充実させたいところです。
仮設・管理費など
仮設・管理費は、建物をつくるための。建設会社によって費用感が大きく異なり、大きな建設会社ほど高くなる傾向があります。
建物が完成した後には形が残らない部分なので真っ先に削減したい部分ではありますが、工事の安全を確保するためには欠かせない費用なので、事業主としても理解を示す必要があるでしょう。大きな建設会社は万全の安全体制で工事を進めるため、仮設・管理費が高い分、事故率は低くなっています。
建設コストを下げるには?
ここでは、建設コストを下げるポイントを紹介します。
ポイントを押さえて建設会社とコミュニケーションを取り、コスト削減を図りましょう。
躯体・仕上げ・設備のバランスを工夫する
計画を進むにつれて建設コストは膨らむ傾向があります。施設の具体性が増してくると施設運営の関係者からの要望が増え、特に設備や仕上関連のコストが膨らみます。増えた分をそのまま追加していくと予算のコントロールが難しくなるため、その他の部分の仕様を下げて増額分を相殺するなどの工夫をするとよいでしょう。
事業に必要十分な施設を考える
立派な工場や倉庫をつくれば、想定できないような将来の変化にも対応できるようになるかもしれませんが、建設コストは高くなります。建設コストを下げることを考えるのであれば、事業に必要十分な施設を考えることが大切です。
冷凍冷蔵倉庫であれば熱容量の大きい分厚いコンクリートの床や壁が必要になるため、鉄骨造の倉庫が向いています。一方、通常の保管物を扱う場合はテント倉庫のような簡易的な倉庫にそれなりの設備を搭載すれば十分に機能し、建設コストの削減に繋げられる可能性があります。
バリューエンジニアリング / コストダウン
建設業のコストコントロールでよく使われる言葉として「VE(バリューエンジニアリング)」と「CD(コストダウン)」があります。建設業ではVEとCDは下記のような意味を持っています。
バリューエンジニアリング (VE)
同等の性能を保持した上でコストを下げる
コストダウン (CD)
仕様を下げてコストを下げる
VEで性能を維持しながらコストを抑えられるのがベストですが、CDを選択しなければいけないケースもあります。建設に関するVE・CDの判断は、その道のプロである建設会社のノウハウによる部分が大きいため、「ここはもっと簡易的でいいからあっちを立派にしたい」といったイメージを積極的に建設会社に伝え、アドバイスをもらうようにしましょう。
設計施工一貫方式であれば、設計段階から施工を見越した計画を進められるため、VEを実現しやすい傾向があります。弊社ストラクトは設計施工一貫方式の対応も可能です。
建設コストの見積もりが安すぎる場合の留意点!
建設コストは建設会社のノウハウ、技術、努力によって大きく異なりますが、安すぎる見積もりを受け取った場合は注意が必要です。ここで紹介する留意点を参考に、適切なコストを把握するようにしましょう。
基本仕様・性能を確認する
まず、見積もりを受け取ったときには必ず基本仕様・性能を確認するようにしましょう。盛り込まれていると思っていた仕様がオプションに設定されており、想定外の建設コストになってしまうケースがあります。採用する可能性のあるオプションは、見積もりを受け取ったときに価格を確認しておくとよいでしょう。
技術力・モラルを確認する
近年はコンプライアンスが厳しくなりずさんな工事をする建設会社は減っていますが、建物の品質に関するトラブルがなくなったわけではありません。建設会社の技術力やモラルが低いことが一因と考えられるため、設計・施工を発注するときは建設会社の調査を実施するようにしましょう。
手軽な調査方法としては、施工実績や口コミの確認、複数社の相見積もりなどがあります。インターネットでもできる方法なので、建設会社にアプローチする前の事前調査としておすすめです。
安全対策を確認する
建設会社としても価格競争力を高めるために仮設・管理費は削減したい項目です。しかし、なかには安全対策がおざなりになってしまっている建設会社もあります。事故が起きると大きなトラブルに繋がってしまうので、安全に対する意識についても確認しておくとよいでしょう。
おわりに
建設コストは事業主の方々にとって重要なポイントですが、建築の専門知識を持っていないと機能・性能を維持したまま削減することは難しいかもしれません。施設が目指すべき方針を設計事務所・建設会社と共有し、うまくVE・CDを取り入れながらリーズナブルで使いやすい施設を目指すことが大切です。知識と経験が豊富な技術者を擁する設計施工一貫方式の建設会社であれば、コストと機能を両立するだけでなく、竣工後のメンテナンスなども含めて頼もしい味方になってくれることでしょう。