製造業などのモノづくりを手掛ける事業者にとって工場力の向上は非常に大きな課題です。近年は生産性・品質・安全だけでなく、働きやすさや環境問題など、工場に求められるものが高度になってきています。さらに製造業DXの機運が高まっていることにより、自社工場の見直しを考えている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、工場診断の評価項目を参考にしながら工場力を高める生産施設のポイントを紹介したいと思います。工場の新築や改修を考えている方は、ぜひご覧になってみてください。
工場診断とは
はじめに、工場診断の概要と評価項目についてみていきましょう。
工場診断は競争力を高めるための工場力チェック
工場診断は、工場の管理システム・製造ラインの効率化を実現するための分析・企画の初期作業とされています。分析・企画のためには工場を正しく評価するための「見える化」が前提となります。「見える化」という言葉は、日本の製造業を牽引するトヨタ自動車が「生産保全活動の実態の見える化」という論文のなかで初めて使われたとされており、工場力を高めるためには欠かせない作業であることがわかります。
大手企業は工場診断により改善を繰り返して競争力を保っている一方で、中小企業は見える化や工場診断に労力をかけられないことが多いのが実情です。しかし、中小企業がこれからも活躍していくためには、見える化・工場診断により現状を把握し改善していく必要があるでしょう。日本がものづくり大国として地位を確固たるものにするためには、大企業だけでなく中小企業の発展が欠かせません。
工場診断の例と項目
工場診断は研究者やコンサルタントによりさまざまな手法が展開されています。
ここでは、秋山経営技術研究所所長の秋山氏の工場診断とZERO1の多田氏が提案する生産性を上げるメソッド「BASE6」の評価項目を紹介します。5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)、作業の標準化、施設関係(工場レイアウト、安全)などは多くの工場診断で採用されており、優先度が高い項目といえるでしょう。
【秋山経営技術研究所 所長 秋山高広氏:工場診断】
現場主義を基本として調査分析・採点を行い、改善点を明らかにする手法生産戦略(製品・技術・人材・設備)
・5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)
・工場レイアウト(設備レイアウトとライン編成)
・作業の効率性(作業のムダとり・標準化)
・モノの流し方(工程管理・現品管理・物流管理)
・品質管理(品質基準・工程品質)
【ZERO1 多田夏代氏:生産性を上げるメソッド「BASE6」】
理想の職場に関するアンケートから導き出した3つの重要な製造基盤「働きやすい環境であること」「一人ひとりの向上力が認められること」「組織としての推進力が感じられること」を評価する手法
・安全度
・5S推進度
・標準作業度
・多高能度
・管理職機能度
・自律活動度
生産施設のつくり方や工夫で改善できるポイントも
秋山氏の「生産戦略」「5S」「工場レイアウト」「モノの流し方」や、多田氏の「安全度」「5S推進度」は、生産施設のつくり方や工夫で改善することができます。次節では、生産施設で押さえるべき工場力を高めるポイントを紹介します。
工場力を高める生産施設のポイント
それでは、工場力を高めるポイントを具体的にみていきましょう。秋山氏の評価項目をベースに解説していきます。
「5S」を改善する表示
5Sの推進に関しては工場によってさまざまな取り組みが行われています。特に整理・整頓は施設の工夫によって改善しやすい項目といえるでしょう。5S活動のコンサルティングを行っているSmile System Suppotは、区画線によるモノの置き場所の表示などの事例を紹介しています(図1)。
図1 区画線によるモノの置き場所の表示
[引用] 株式会社Smile System Support「5S改善アイデア事例集【工場編③】画像で見る業務効率が上がる整頓術」
「工場レイアウト」を改善する建物配置
スムーズに生産作業を進められる工場は、設備レイアウトやライン編成を意識して建物が配置されています。生産プロセスの順番に建物を設置するだけでなく、運搬車両の通行スペースやストックヤードなど、適切な場所に十分なスペースを確保して建物を配置することが大切です。また、将来の変化を見越して増築・減築なども視野に入れられると柔軟性の高い工場になるでしょう。
「上屋テント」は柔軟性の高い工場レイアウトを実現するソリューションです。ウイングトラックも自由に出入りすることができ、荷捌きスペースとしてもストックヤードとしても利用できます。雨除け・日除けの機能を期待できるため、快適かつ効率的な作業をサポートします。
「モノの流し方」を改善する動線計画
建物配置の次に意識すべきなのが、建物内の動線計画です。動線計画で大切なのは、工場で働く人の意見や要望を汲み上げて設計者が計画に反映させることです。工場を計画するときは、従業員のヒアリングをこまめに行いながら設計者に伝えるようにしましょう。
自由な動線計画や設備レイアウトを実現するのにおすすめなのが「テント倉庫」です。膜屋根の軽さを活かした中柱のない大空間によりさまざまなプランに対応します。また、膜生地の透光性により作業しやすい明るい空間になることも好評を得ています。
「生産戦略」を改善する柔軟な施設
秋山氏の生産戦略の詳細項目では製品・技術・人材・設備が挙げられており、その内容は多岐にわたることがわかります。そんななか、変化が著しい製造業界で重要なポイントのひとつは「柔軟性」であるといえるでしょう。先を見越して準備できるのがベストですが、想定外の変化が起きる可能性も十分に考えらえます。さまざまな変化に対応するためには、施設にも柔軟性を持たせることが大切です。
施設に柔軟性を持たせるには、以下のようなポイントが挙げられます。
・広さに余裕を持たせる
・増築スペースを残しておく
・スピーディーに建設・解体ができる構造物を採用する
まず、施設の柔軟性を高めるには将来的に設備や建物を増やすための必要なスペースを確保しておくことが有効です。大きめの施設をつくる、周囲に増築用のスペースを残すなどの方法があります。
また、スピーディーに建設・解体ができる構造物を採用すれば繁忙期や閑散期への対応などが容易になるほか、想定外の変化にも対応しやすくなります。テント倉庫や上屋テントのような比較的短工期かつリーズナブルに建設・解体できる構造物は有効なソリューションのひとつといえるでしょう。
生産施設のプロによる設計
工場力の高い工場を実現するためには、生産施設のプロに依頼することをおすすめします。生産施設は数ある建築物のなかでも特殊な建物用途であり、独特の知識やノウハウが求められるからです。生産施設を専門とする設計者は、事業者の要望を素早く汲み取り、適切な提案をしてくれるでしょう。弊社ストラクトには元工場長や工場業務経験者も在籍しており、建物だけでなく工場内の製品の積み方や動線計画もあわせてご提案できます。
おわりに
多田氏が工場の製造基盤として「働きやすい環境であること」「一人ひとりの向上力が認められること」「組織としての推進力が感じられること」を挙げているとおり、工場力の高い生産施設には環境・ヒト・組織の改善が必要です。なかでも「環境」は施設のつくり方で改善できるポイントが多いため、工場の新築・改修を計画するときにはプロの力を借りながら意識して進めましょう。