はじめに
工場や倉庫を扱う事業主にとって、施設の維持管理は事業を継続するための重要なポイントです。特に屋根は、雨や風を防ぐ重要な役割を持つ部材でありながら、目視する機会は少ないため不具合を発見するのが遅くなってしまう傾向があります。定期的に点検・メンテナンス・改修を行い、良好な状態を保ち、設備・機械や保管物、従業員の労働環境を守りましょう。
今回は、工場・倉庫で使われることの多い屋根構造別の改修方法や費用相場などについて詳しく解説します。屋根の改修や施設の新設を検討している方は、ぜひご覧になってみてください。
工場・倉庫の屋根改修が必要な理由と放置した際のリスク
工場や倉庫の屋根改修は、事業運営に直結する重要な設備投資です。まずは屋根改修が必要な理由や、放置した際のリスクをみてみましょう。
屋根改修が必要な理由
工場・倉庫の屋根改修が必要となる背景には、建物の状態や社会情勢が大きく関係しています。これらを理解し、適切な改修計画を立てることが大切です。
【屋根改修が必要な主な理由】
・経年劣化による防水性能の低下
・気象条件による損傷(台風・雹・紫外線など)
・点検に対する対応
・環境意識の高まりによる断熱性能向上の必要性
建物は、時間が経つにつれて劣化が進みます。例えば、屋根材の継ぎ目に設置するシーリング材は10~15年で性能が低下するとされており、放置すると雨漏りの原因になります。暴風雨や紫外線といった気象条件による損傷も考えられるため、定期的に目視点検を行うのが好ましいですね。点検の結果に応じて適切なメンテナンスを実施しましょう。なお、屋根に上るのは危険なので、点検用の通路を設置しておくか、専門家に依頼するのがおすすめです。
また、環境意識の高まりも屋根改修が必要な理由のひとつです。空調による環境負荷を抑えるため、建物には高い断熱性が求められるようになっています。エコな建物で環境への配慮をアピールして社会的な信用を獲得しながら、ランニングコストの削減を実現している企業も増えていますね。環境を意識すると従業員の労働環境が改善されることも多く、様々なメリットを得られる投資といえるでしょう。
屋根改修を放置することで生じるリスク
短期的なコストを削減するために屋根改修を放置すると、長期的には大きな損失を招く可能性があります。
【屋根改修を放置することによるリスク】
・雨漏りによる設備・機械・保管物の損害
・構造劣化(錆など)による安全性の問題
・建物価値の低下
・従業員の労働環境の悪化
・エネルギー効率の低下と光熱費の増加
雨漏りが発生すると、設備・機械・保管物などが損害を受け、事業継続に大きな影響を与えるリスクが発生します。また、浸入した雨により構造部材が錆びて耐力が低下すると安全性の問題が発生し、建物の価値の低下に繋がります。従業員にとっても働きやすい環境とはいえなくなってしまうでしょう。
断熱性が低い屋根はエネルギー効率が低く、高い光熱費の一因となります。ランニングコストが事業継続のネックにならないように早めに対処したいところです。放置するとESG評価に悪影響を与える可能性もあります。
屋根構造別の改修工事内容と費用相場
ここでは、工場・倉庫で使われることの多い「折半屋根」「波型スレート屋根」「立平葺き(たてひらぶき)屋根」の改修工事について解説します。費用の目安を掲載していますが、屋根の状況や材料、作業環境に影響されるので詳しくは専門業者に問い合わせてみてください。
折半屋根の改修

折半屋根は、工場・倉庫で最も多く使われている屋根材のひとつです。軽量で施工しやすいことから、非居住建物で幅広く使われています。ガルバリウム鋼板を使った折半屋根の場合、約20~40年が寿命とされています。塗装工事でメンテナンスを行いながら、状況に応じてカバー工法、葺き替え工事といった改修を実施するのが一般的です。錆びや腐食、塗装の剥がれ、色褪せなどを確認したときは専門業者に相談しましょう。
●塗装工事
定期的に塗装を行うことで、金属の錆や腐食を防ぎます。
・費用:3,000~6,000円/㎡程度
・実施周期:約10~15年(塩害地域は約7~10年)
・工期:1週間/1,000㎡程度
●カバー工法
既存屋根の上に新しい屋根材を重ねる改修方法です。
コストを抑えられるので折半屋根におすすめの方法ですが、屋根重量が増えることによる構造安全性を確認する必要があります。
・費用:10,000~15,000円/㎡程度
・実施周期:約25~35年
・工期:1~2週間/1,000㎡程度
●葺き替え工事
既存屋根を撤去して、新しい屋根に交換する工事です。カバー工法と比べて既存屋根を撤去する手間とコストが掛かるので、カバー工法を採用するのが難しい場合の選択肢として考えておきましょう。
・費用:12,000~20,000円/㎡程度
・実施周期:約25~35年
・工期:2~3週間/1,000㎡程度
波型スレート屋根の改修

波型スレート屋根は、昭和時代の工場・倉庫でよく使われていました。昭和50年以前の波型スレート屋根は有害物質とされているアスベストを含有している可能性が高く、専門資格を持ったプロでなければ撤去作業を実施できません。アスベスト対応費や工期のことも含めて専門業者に相談しながら計画を立てましょう。
●塗装工事
波型スレート屋根の塗装工事は、美観を維持することが主な目的です。折半屋根のように塗装工事で寿命が延びるようなことはないので、見た目が気になる場合に実施しましょう。
・費用:4,000円/㎡程度
・実施周期:約10年
・工期:1週間/1,000㎡程度
●カバー工法
アスベストを含有している波型スレート屋根の場合、屋根材の処分費が高額になるためカバー工法が有効です。新設する屋根材としてはガルバリウム鋼板が一般的で、その他の軽量屋根材も使用できます。
・費用:10,000~14,000円/㎡程度(アスベスト含有:12,000~23,000円/㎡程度)
・実施周期:約20~30年
・工期:2~3週間/1,000㎡程度
●葺き替え工事
前述のとおり、アスベストを含有していると費用が高額になります。専門業者に事前調査を依頼し、コスト・工期を把握してから計画を進めましょう。
・費用:15,000円~25,000円/㎡程度(アスベスト含有:25,000~40,000円/㎡程度)
・実施周期:約20~30年
・工期:3~5週間/1,000㎡程度
立平葺き(たてひらぶき)屋根の改修

立平葺き屋根は、縦方向に継ぎ目のある金属屋根で、雨水がよく流れ、メンテナンスしやすい構造が特徴です。継手部分が劣化しやすいため、定期的な点検が求められます。
●部分補修
立平葺きの弱点である継手部分などを部分的に補修します。
・費用:5,000~15,000円/箇所程度
・工期:1~3日程度
●塗装工事
金属の錆びや腐食を予防します。
・費用:2,000~6,000円/㎡程度
・実施周期:約10~15年
・工期:1週間/1,000㎡程度
●葺き替え工事
立平葺き屋根にカバー工法を採用するのは難しいため、葺き替え工事による改修が一般的です。
・費用:8,000~12,000円/㎡程度
・実施周期:約20~30年
・工期:2~3週間/1,000㎡程度
改修工事を依頼する際の業者選びのポイント
屋根の改修工事を依頼する業者を選ぶ際は、以下の3点を心がけましょう。
・複数社への見積もり依頼
・アフターメンテナンス体制の確認
・施工実績と専門性の確認
改修工事の相場がわからない場合、複数社に見積もりを依頼して比較検討することにより、妥当な金額を知ることができます。記載内容の理解を深めるのにも役立つので、少なくとも3社に見積もりを依頼しましょう。また、屋根の改修は雨漏りなどの不具合が生じる可能性もあるので、アフターメンテナンス体制を確認し、もしものときにスムーズに対応してもらえる業者を選ぶことが大切です。
改修工事の仕上がりやアフターメンテナンスの対応については、インターネット上の実績や口コミで調査できます。専門性についても合わせて確認し、信頼できる業者を選定しましょう。
膜屋根の改修・メンテナンス
最近は上記でご紹介した一般的な屋根から、コスト抑制のために膜屋根に改修するケースも増えています。ここでは、ストラクトが得意としている膜屋根の改修・メンテナンスについて解説します。
膜屋根の劣化サインと点検ポイント
膜屋根の良好な状態をキープするためには、定期的に点検をして早期に不具合を発見することが重要です。代表的な劣化サインは以下のとおりです。
【膜屋根の劣化サイン】
・膜面の変色
・膜面のひび割れ、亀裂
・膜面のたるみ
・縫製部分のほつれ
年2回程度(春・秋)の頻度を目安に点検を行い、上記のような劣化サインが見られたメーカーに連絡して対応してもらいましょう。屋根を目視するのが難しい場合や、できるだけ早く不具合対応を実施したい場合は、専門知識を持つ技術者に点検を依頼できる体制をつくっておけると安心ですね。
膜屋根の改修
膜屋根の改修は、軽度であれば部分補修を行い、必要に応じて全面を張り替えます。
●部分補修
10cm以下の穴や30cm以下のひび割れなどに対してテープ補修などの処置を施します。構造上重要な部分や縫製部分の損傷には適用できないことがあります。
・費用:5,000~15,000円/箇所程度
・実施周期:約10~15年
・工期:1~3日程度
●張り替え工事
部分補修で対応できない場合は全面張り替え工事を実施します。一般的な屋根と比べると短い工期で実施できるのが特徴です。
・費用:10,000~15,000円/㎡程度
・実施周期:約15~20年
・工期:5~7日/1,000㎡程度
膜屋根を扱うには、膜素材特有の知識や経験が必要です。膜屋根の改修は、商品のメーカーに依頼することをおすすめします。
一般的な屋根から膜構造屋根への改修メリット
一般的な屋根から膜屋根に改修すると、以下のようなメリットがあります。
・改修の工期短縮
・営業を継続しやすい
・コスト削減
・内部空間に自然光を取り込める
一般的な屋根だと数週間かかる全面改修工事が、膜屋根であれば数日で完了します。営業に影響する期間が短く済むため、営業を継続しやすいことがメリットです。また、折半屋根などと比較して、改修コストを抑えられるケースもあります。膜屋根は光を通して優しい空間をつくってくれるため、従業員に働きやすい環境を提供できることも人気の理由のひとつです。
おわりに
事業継続と安全確保のためには、工場・倉庫の屋根改修は重要な投資といえます。不具合が生じて内部の設備・機械・保管物に被害が生じる前に対応しましょう。本記事では改修工事の費用や工期の目安をご紹介しましたが、実際の工事内容は屋根の状態や施工条件によって異なります。早めに業者に相談し、運用再開までの綿密なスケジュールを立てることが大切です。膜屋根に改修すると内部空間のイメージがガラッと変わり、働きやすい環境を提供できるのでぜひ検討してみてください。
