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工場の熱中症対策|原因・義務化・WBGT活用・設備改善・応急処置まで徹底解説

夏の工場では「暑いのは当たり前」という空気が残りがちですが、熱中症は命に関わる労働災害です。近年は猛暑日が増え、製造現場や物流現場での重篤事案・死亡災害が繰り返し報告されており、「現場任せ」では防げないことが浮き彫りになっています。

工場の熱中症対策完全マニュアル

さらに、2025年6月施行の労働安全衛生規則改正により、熱中症対策は「推奨」から「必須」へ変わります。事業者には、予防だけでなく発生時の報告体制・対応手順・周知の整備がより強く求められます。

この記事では、工場の熱中症について「なぜ起きるのか」から始め、WBGT(暑さ指数)の活用、設備改善、作業管理、健康管理、教育、応急処置、さらに義務化対応に必要な書類・マニュアルや改善事例まで、実務に落とし込める形で解説します。

📌 この記事で分かること
  • 熱中症対策の5本柱と優先順位の付け方
  • 2025年6月義務化で事業者が整備すべき体制
  • WBGTの測定・活用方法と値を下げる具体策
  • 空調・遮熱・上屋テントなど設備投資の選び方
  • 現場で再現しやすい改善事例5選
  • よくある質問(FAQ)

熱中症対策の全体像と優先順位

工場の熱中症対策は、思いつくグッズを買い足すだけでは成果が出ません。現場で効くのは、対策を「体系」で捉えて、優先順位をつけて潰していくことです。熱中症予防でよく使われる次の5本柱で全体像を押さえると、抜け漏れが一気に減ります。

  • 作業環境管理:暑さの原因(熱・湿気・輻射熱・風の弱さ)を設備面で下げる
  • 作業管理:作業時間・休憩・ローテーションで負荷を調整する
  • 健康管理:体調・持病・服薬・睡眠不足など個人リスクを管理する
  • 労働衛生教育:症状の理解、自己申告、応急処置、報告の徹底
  • 応急処置:発生時の初動で重篤化を止める(最優先)
熱中症対策の5本柱と優先順位
図1 熱中症対策の5本柱と優先順位

この中でも最優先は「重篤化防止」です。理由はシンプルで、熱中症は初期症状の段階で正しく離脱・冷却・搬送判断ができれば、最悪の結果を避けられる確率が大きく上がるからです。逆に「もう少し頑張れる」「交代がいない」「ラインが止まる」といった事情で作業継続を選ぶと、短時間で意識障害に進行することがあります。

優先順位の付け方としては、現場では次の順で進めるのが現実的です。まずは運用でリスクを下げ、次に中規模改善、最後に設備投資で根治に近づけます。

  1. 低コスト運用(すぐやる):WBGTの見える化、休憩・補給ルール、報告体制、応急処置訓練
  2. 中規模改善(効くところから):スポット冷却、送風強化、休憩スペース改善、搬入口の遮断
  3. 設備投資(構造的に下げる):遮熱・断熱、換気設計見直し、排熱、ゾーン空調・大型空調、上屋・屋根

また「誰が何をするか」を曖昧にしないことも重要です。管理者側はWBGT管理やルール設計・教育・記録を主導し、従業員側は体調申告や補給・離脱の徹底を担う。設備側は暑さの発生源を潰し、仕組み側は報告と初動が回る状態を作る。この分担が整理できると、対策がやりっぱなしにならず、現場に定着します。

工場の熱中症対策チェックリスト(今日からできる)

明日から現場で動ける形に落とすなら、まずは「常備」「ルール」「見える化」「共有」の4点を揃えるのが早道です。特別な設備がなくても、ここを固めるだけで救急搬送リスクは下がります。

水分と塩分は「各自で持参」だと欠けやすいため、現場として常備し、誰でも取りやすい場所に置く運用が向きます。休憩も同様で、「暑かったら休んでいい」ではなく、時間で区切るほうが回ります。WBGTや気温の掲示は、数字があるだけで管理者の判断が早くなり、作業者の遠慮も減らせます。さらに、熱中症警戒アラートの情報を朝礼やチャットで共有し、その日の危険度をチームの共通認識にすると、申告が出やすくなります。

応急対策としての暫定導入なら、スポットクーラー・大型扇風機・ミスト扇風機は検討しやすい選択肢です。ただし「置いたのに効かない」も多いので、後段の章で配置や使い分けのコツも解説します。

健康面では、睡眠不足・飲酒・朝食抜き・下痢・発熱・二日酔い・利尿作用のある薬など、熱中症の引き金になりやすい要因が重なります。ここは本人の自己管理に任せ切りにせず、出勤時の体調申告や、現場リーダーが声かけできる仕組みを作るだけでも予防効果があります。


工場で熱中症が起きる原因と症状

熱中症は「暑さで倒れる」だけの話ではありません。体の中で起きているのは、主に脱水(体液不足)体温調節の破綻(深部体温の上昇)です。汗をかけない、汗が蒸発しない、放熱できない状態が重なると、短時間でも危険域に入ります。特に工場は、屋外ほど直射日光がなくても、輻射熱や熱源、換気不足が重なりやすく、気づかないうちに「逃げ場がない暑さ」になります。

原因は気温だけではありません。熱中症リスクは次の要素の組み合わせで上がります。

  • 湿度:汗が蒸発しにくく、冷却が効かない
  • 輻射熱:炉・乾燥機・溶接・加熱設備、金属床・機械からの熱
  • 風(気流):風が弱いと汗が蒸発せず、体表の熱が逃げない
  • 作業強度(代謝):重量物運搬、速いライン作業、階段昇降など
  • 服装・保護具:防護服、耐熱服、手袋、マスク等で放熱が阻害される

症状も「いきなり倒れる」より、たいていは段階があります。現場で見落としやすい初期症状としては、めまい、立ちくらみ、頭痛、吐き気、異常な発汗(または汗が止まる)、筋肉のつり(こむら返り)、集中力低下、普段より受け答えが遅い、といった変化が出ます。ここで離脱できれば、重篤化は防げる可能性が高い一方、我慢して続けると、けいれん、意識障害、高体温、嘔吐が続くなど危険な状態に進行します。

工場で熱中症対策を強化すべき理由は、気候の変化だけではありません。製造工程そのものが熱を出し、建屋の構造上熱がこもりやすく、さらに「止められない工程」が判断を遅らせることが多いからです。熱中症は人命リスクに加えて、生産性にも直結します。暑熱下では作業スピードが落ち、判断ミスが増え、手元が狂い、ヒヤリハットが増える。結果として品質トラブルや労災の増加につながり、現場の負担がさらに増す悪循環になります。

熱中症リスクが高い現場・工程

同じ工場でも、熱中症が出やすい場所は偏ります。特に注意したいのは「局所的な高温エリア」です。ゾーン空調を入れていても、熱源の近く、天井付近、空気が滞留する袋小路、搬入口周辺などは別世界の温度になりやすく、WBGTを測ると差がはっきり出ます。

また、防護服や保護具が必須の工程では、体の熱を外に逃がしづらく、汗が蒸れやすい環境になります。粉じん環境や化学物質を扱う工程では「涼しさ」だけでなく安全要件も絡むため、個人用冷却機器の適合や、送風の可否、防爆要件の確認が欠かせません。

物流・荷捌き場のように、上屋やテント領域と建屋がつながっている場所も要注意です。搬入口の開閉で冷気が抜け、外気が入り、暑熱が出入りするため、空調を強くしても追いつかないことがあります。ここは設備投資より先に、動線や開閉ルール、カーテンの設置で改善できる余地が大きい領域です。


2025年6月 義務化と会社の責任

2025年6月に施行される労働安全衛生規則改正(熱中症対策の強化)では、熱中症を「気をつけましょう」ではなく、事業者が仕組みとして回すべき安全衛生管理として扱う方向が強まります。特にポイントは、発生時の重篤化を防ぐために、現場が迷わず動けるようにする「体制」と「手順」と「周知」を整えることです。

事業者(会社)側に求められる対応は、現場感で言い換えると次の3つに集約されます。

  1. 報告体制:熱中症が疑われる人が出たときに、誰にどう報告し、誰が判断し、誰が搬送を手配するかが即時に分かる体制
  2. 対応手順の整備:その場での対応を標準化した実施手順(対応手順)の文書化
  3. 関係者への周知:管理者だけでなく、派遣・協力会社を含む関係労働者へ確実に周知すること

法令違反の罰則や行政指導のリスクは個別事情で変わりますが、一般論として、法令に基づく措置が求められる場面で未整備・未実施があれば、是正勧告や指導の対象になり得ます。現場としては「何が求められているか」を先回りして揃えておくのが、結果的にコストも混乱も少なく済みます。

また、勤務時間中の熱中症は、安全配慮義務の観点でも見過ごせません。安全配慮義務とは、使用者が労働者の生命・身体の安全を確保しつつ働けるよう配慮すべき義務で、暑熱環境に関しても合理的な対策を怠れば問題になり得ます。具体的には、WBGTを把握せず高温作業をさせ続ける、休憩や補給の仕組みがない、症状が出ても離脱させない、教育や周知が不足している、といった状態はリスクが高いと考えられます。

さらに、業務中の熱中症は状況により労災認定の対象になり得ます。労災の判断はケースごとですが、業務起因性(仕事が原因といえるか)や業務遂行性(業務中か)を踏まえて判断されます。事業者側としては、労災になる・ならない以前に、事故を起こさないための予防と、万一の時の記録・報告体制が重要です。

義務化に備えて整備すべき書類・マニュアル

義務化対応でつまずきやすいのは、「とりあえず文書を作ったが現場が動けない」パターンです。必要なのは、監査用の立派な文書より、現場が迷わず使えるマニュアルです。最低限、次の3点はセットで整備しておくと、運用に乗りやすくなります。

まず報告フローは、誰が見ても一瞬で理解できる形が理想です。現場→班長→安全衛生担当→管理監督者→救急要請・産業医・総務、のように、連絡順と連絡手段(内線・携帯・チャット)を明記し、夜勤や休日の連絡先も埋めておきます。

熱中症発生時の緊急連絡体制(報告フロー)の例
図2 熱中症発生時の緊急連絡体制(報告フロー)の例

次に「初期症状の把握と作業離脱のルール」です。ここは曖昧だと現場が我慢してしまうため、たとえば「めまい・吐き気・頭痛・足がつる・いつもと様子が違う、いずれかが出たら自己申告または周囲が申告→作業離脱」といったように、判断を簡単にします。作業を止める基準を明確化するほど、結果的に重症化は減ります。

最後に応急処置と搬送手順です。冷却部位(首・脇・鼠径)、冷却用品の置き場、救急車要請の基準、医療機関に伝える情報(作業内容、発生時刻、WBGT、意識状態など)を定型化します。発生時刻、WBGT値、作業内容、休憩・補給状況、服装などの記録様式を作っておくと、再発防止の原因分析にも直結します。


WBGT(暑さ指数)の活用方法

工場の熱中症対策を「気温何度だから危ない」で管理しようとすると、精度が足りません。なぜなら、工場内は湿度や輻射熱、風の弱さ、工程ごとの作業強度で体感が大きく変わるからです。そこで現場実務で核になるのがWBGT(暑さ指数)です。WBGTは熱中症リスクを評価するための指標で、気温だけでなく、湿度・輻射熱・気流の影響も加味し、より実態に近い危険度を示します。

運用で重要なのは「測った数字をどう使うか」です。WBGTを測るだけで満足してしまうと、現場は変わりません。WBGTを基準に、作業の継続可否、休憩頻度、作業短縮、作業場所の変更、要員追加などを判断できる状態にして初めて意味があります。

測定の考え方としては、工場では「代表点」だけでなく、熱のムラが出る場所を優先して測るのが現実的です。たとえば、熱源付近、搬入口、天井が低い区画、空調の風が届きにくい場所、防護服工程などです。時間帯も、昼過ぎだけでなく、立ち上がり(朝)とピーク(午後)、夜勤の環境など、実態に合わせて計画します。

WBGT測定器は携帯型・設置型があり、現場巡回で点検するなら携帯型、常時表示して注意喚起まで行うなら設置型が向きます。選定では、設置高さ(作業者の頭部〜胸部付近を意識)、直射日光や熱源の影響の受け方、校正やメンテナンスのしやすさも確認しておくと、数字の信頼性が上がります。

WBGTの値を下げる方法は、大きく分けて「熱を入れない」「熱を捨てる」「冷やす」に整理できます。直射日光や屋根からの侵入熱は遮熱・断熱で抑え、熱源からの放熱は隔離や排熱で逃がし、最後に空調やスポット冷却で下げる。この順で考えると、対策が場当たりになりにくいです。

WBGTと「熱中症警戒アラート」の使い分け

熱中症警戒アラートは、地域単位で暑さの危険度が高い日を知らせる仕組みです。一方で、工場内の危険度は建屋構造や工程で大きく変わるため、職場の判断にはWBGTがより直接的です。実務では、「アラート=今日は危ない前提の日」「WBGT=この職場のこの場所は実際に危ない」という位置づけで併用するのが分かりやすいでしょう。

共有方法は、朝礼での口頭伝達に加え、デジタルサイネージやホワイトボードへの掲示、現場チャットでの定時配信など、複線化すると抜けが減ります。「今日の最大WBGT予測」「重点工程」「休憩強化」「新規入場者の注意」までセットで流すと、現場が動きやすくなります。


作業環境管理・設備改善の具体策

設備改善はコストがかかる分、当たれば効果が長く続きます。一方で、導入目的が曖昧だと「電気代だけ上がって現場は涼しくならない」ことも起こります。まずは工場内が暑くなる原因を分解し、原因別に打ち手を選ぶのが基本です。

屋根や外壁からの熱の侵入が大きい工場では、遮熱塗装や断熱、遮熱シート、断熱フィルムなどで「入ってくる熱」を減らすほうが、空調を強化するより費用対効果が高いことがあります。特に金属屋根の建屋は日射の影響が大きく、天井付近の熱だまりが現場に降りてくる構造になりがちです。ここを抑えるだけでWBGTが下がり、スポット冷却の効きも良くなります。屋根散水(スプリンクラー)のように、条件が合えば有効な手段もありますが、水管理や設備保全も含めて検討が必要です。

機械設備の放熱が原因の場合は、熱源をそのままにして送風だけ増やすと、熱風を循環させるだけになりがちです。熱源隔離(囲い込み)、排熱ダクト、吸排気フード、局所排気の設計で「熱を外へ捨てる」方向へ持っていくと改善が早いです。溶接や乾燥炉など工程由来の熱は、工程改善と設備改善がセットになるため、保全・生産技術・安全衛生が同じテーブルで検討できると成功率が上がります。

搬入口・出入口からの冷気流出は、比較的取り組みやすい改善点です。ビニールカーテン、間仕切り、エアカーテン、開閉回数を減らす動線見直しなどで、空調効率が大きく改善することがあります。特に物流導線の都合で開けっぱなしが常態化している場合、ルールと設備を同時に入れると現場が納得しやすくなります。

スポットクーラー、大型扇風機、ミスト扇風機は「暫定対策」として人気がありますが、使い分けが重要です。スポットクーラーは狙った場所を冷やすのに向き、排熱処理が不十分だと逆効果になり得ます。大型扇風機は気流を作って汗の蒸発を助けますが、熱源の近くでは熱風を浴びる形になるため、配置と風向きの調整が必要です。ミストは湿度を上げやすいので、環境によってはWBGTを悪化させる可能性もあり、換気とセットで使うなど条件整理が欠かせません。

さらに忘れてはいけないのが、涼しい休憩場所の確保です。作業場所だけを改善しても、休憩中に体温が下がらなければ回復しません。休憩室は動線が悪いと使われず、収容人数が足りないと「混雑で暑い」という本末転倒が起きます。冷房、冷水、塩分、体温冷却用品(冷却材・冷却タオルなど)を常備し、本当に涼しい場所として機能させることが重要です。

屋外寄りの荷捌き・仮置き工程では、上屋テント/屋根の設置が効くことがあります。直射日光を避けるだけでも体感は大きく変わり、WBGTの低減にもつながります。雨除けにもなるため、熱中症対策と作業性改善を同時に進められるのがメリットです。建物工事と比べて工期が短く、建ぺい率や設計要件の整理も含めて専門業者に相談すると、自社に合った形で導入しやすくなります。

熱の発生源に応じた設備改善のアプローチ
図3 熱の発生源に応じた設備改善のアプローチ(または上屋テント施工事例)

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設備投資とコストの考え方

設備投資は「高いものほど効く」ではなく、目的とボトルネックが合っているほど効きます。WBGT低減が目的なら、どの要因(湿度・輻射熱・気流・侵入熱)が支配的かを見極める必要があります。休憩確保が目的なら、休憩室の位置と回転率が支配的かもしれません。搬入口対策が目的なら、空調能力よりも漏気対策のほうが効くことが多いです。

導入前には、温度ムラや熱源、換気量を把握する簡易調査を行い、可能なら試験導入で効果を確認してから本導入に進むのが安全です。スポットクーラーを数台試し、どのライン・どの配置が最も効果的かを検証してから増設するだけでも、失敗確率は下がります。

稼働時間が長い工場では、空調制御システムや見える化(エネルギー・環境データの監視)も効果を発揮します。稼働状況に合わせて最適化できれば、暑さ対策と電力コストのバランスを取りやすくなります。

工場の熱中症対策に使える政府支援制度

熱中症対策は人命保護の投資である一方、資金負担が現実問題として立ちはだかります。そのため、設備更新や省エネ、職場環境改善に関連する補助金・助成金、税制優遇、低利融資などの支援策をセットで検討すると進めやすくなります。多くは公募型で、業種・企業規模・対象設備・申請時期に条件があるため、「使えるか」ではなく「使える可能性を潰していないか」を確認する姿勢が重要です。

探し方としては、国(省庁)・自治体・中小企業支援機関・業界団体の公募情報を定期的にチェックし、設備ベンダーや施工会社にも「補助金対象になり得るか」の見立てを早めに相談すると、要件整理がスムーズです。業界団体の研修や成功事例共有のネットワークは、現場運用の型を学ぶ意味でも有効で、単独で試行錯誤するより早く改善が進むことがあります。


作業管理・健康管理・教育の実務

設備を入れても、運用が弱いと熱中症はゼロになりません。逆に言えば、運用を整えるだけで、一定のリスクは確実に下げられます。作業管理で重要なのは、暑熱下での負荷を「個人の根性」に任せず、工程設計として下げることです。

たとえば、高温になりやすい時間帯の作業を避けて前倒しする、負荷が高い工程を短時間に区切ってローテーションする、応援要員を投入して休憩を取りやすくする、などです。ライン停止が難しい工場ほど、事前に「暑い時間帯に誰がどこを担当するか」を決め、休憩タイミングを工程計画に織り込んでおくことが欠かせません。

休憩ルールは、「暑いと感じたら休んでいい」ではなく、WBGT値や時間帯に連動した定時休憩にする方が現場で回ります。たとえば「WBGT28以上の時間帯は、連続作業45分+休憩15分を基本とする」「WBGT31以上になったら30分作業+15分休憩へ切り替え」のように、数字と時間で区切ると判断の迷いが消えます。「休んでいい」ではなく「休む」が前提の設計にすることが、現場文化を変える出発点です。

水分・塩分の補給は、「飲めるようにしておく」では足りず、飲む量と頻度の目安を示し、飲んでいるか確認する仕組みが必要です。目安としては、20〜30分ごとにコップ1杯(150〜200mL)程度、汗をかく作業では塩分(塩飴、経口補水液、味噌汁など)も組み合わせます。水やお茶だけでは電解質が補えないため、スポーツドリンクや経口補水液を常備するのが実務的です。カフェイン入り飲料やアルコールは利尿作用があるため注意が必要です。

暑熱順化(暑さに体を慣らす過程)も、作業管理の一環として押さえるべきポイントです。連休明け、長期休暇明け、新規入場者、体調不良からの復帰者は、体が暑さに慣れていないため熱中症リスクが跳ね上がります。最初の数日間は作業負荷を下げる、短時間から始めて段階的に通常作業に移行する、といった計画的な順化が必要です。特に7月初旬の梅雨明け直後と、お盆明けの2回は、毎年のように救急搬送が集中する時期です。

健康管理:体調申告の仕組みづくり

健康管理は「個人の自己管理」に任せきりにすると機能しません。熱中症リスクは、前日の睡眠不足、飲酒、朝食抜き、下痢・発熱、二日酔い、持病(高血圧、糖尿病、腎疾患、心疾患など)、服薬(利尿薬、降圧薬、抗ヒスタミン薬など)といった個人要因で大きく変動します。これらを網羅的に管理するのは現実的ではありませんが、出勤時の体調申告を仕組みとして入れるだけで予防効果が変わります。

体調申告のポイントは「申告しやすい空気」を作ることです。「体調が悪い=休みたいと言っている」と受け取られる風土では、誰も申告しません。朝礼で全員に「体調どうですか」と声をかける、体調チェックシートを形骸化させず記入する、申告した人を責めない、といった地道な運用が回る環境を目指します。特に夏場は、班長やリーダーが「昨日寝られた?」「朝ごはん食べた?」と声かけするだけでも、重症化の芽を摘む効果があります。

持病や服薬の情報は本人の同意の下で管理し、暑熱作業の配置判断に活かします。産業医や衛生管理者が関与できる体制であれば、配置転換や作業軽減の判断がスムーズです。健康診断の結果も含め、暑い時期の前に「暑熱作業に対するリスクが高い人」を事前に把握し、配慮できる体制を整えておくのが理想です。

労働衛生教育:知識を「行動」に変える

教育は「一度やって終わり」にすると効果が薄れます。暑くなる前の時期(5月〜6月上旬)に1回実施し、シーズン中は朝礼や掲示で繰り返すのが現実的です。教える内容は、知識よりも行動に落とし込む方が現場に残ります。

教育で最低限カバーすべきポイントは次の4つです。

  1. 初期症状とセルフチェック:自分で気づける兆候(めまい、頭痛、吐き気、こむら返り、異常な汗、集中力低下)を知る
  2. 作業離脱と申告のルール:「おかしい」と感じたら自分で離脱してよい。周囲が異変に気づいたら声をかけて離脱させる。申告=正しい行動であることの徹底
  3. 応急処置の手順:涼しい場所へ移動、衣服を緩める、冷却部位(首・脇・鼠径)を冷やす、意識があれば水分を飲ませる、意識が曖昧なら即座に救急要請
  4. 報告の流れ:誰に、どの手段で、何を伝えるか。迷ったら上に上げる(判断を下に押し付けない)

効果的な教育方法として、実際の応急処置を体験する「ロールプレイ訓練」があります。頭で分かっていても、目の前で人が倒れたときに動けるかは別問題です。冷却材の場所を確認し、実際に首や脇に当ててみる。AEDの場所を確認する。救急車を呼ぶ練習をする。これを一度体験しておくだけで、いざという時の初動速度がまったく違います。

教育対象は正社員だけではありません。派遣社員、パート・アルバイト、協力会社の作業者、新規入場者など、現場にいるすべての人が対象です。言語が異なる外国人労働者がいる場合は、多言語対応の資料や、絵・図を中心にした掲示で補います。「知らなかった」が重篤事故につながるのを防ぐためにも、周知の網は広く張るのが原則です。


応急処置と重篤化防止

熱中症対策の中で最も重要度が高いのが、発生時の初動対応です。どれだけ予防を徹底しても、リスクをゼロにすることはできません。発生した瞬間に正しく動けるかどうかが、軽症で済むか重篤化するかの分かれ目になります。

症状の見極めと対応判断

現場で熱中症が疑われる症状が出たら、まず作業を止めて涼しい場所へ移動させることが最優先です。「もう少し頑張れる」「ラインが止まる」といった判断は、ここでは一切入れません。

症状の段階と対応の目安は次の通りです。

重症度 主な症状 対応
軽度(現場対応可能) めまい、立ちくらみ、こむら返り、大量の発汗 涼しい場所で休憩、衣服を緩める、冷却、水分・塩分補給。回復したら経過観察、当日は暑熱作業から外す
中等度(医療機関の受診を検討) 頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、集中力の著しい低下 冷却を続けながら、自力で水分が取れるか確認。嘔吐で水分が取れない場合は医療機関へ
重度(即座に救急要請) 意識がぼんやり、呼びかけへの反応が鈍い、自分で水が飲めない、体が異常に熱い、けいれん ためらわず119番通報。救急車が到着するまで冷却を止めない

判断に迷ったら「重い方」で対応するのが鉄則です。「大丈夫そうに見える」で様子見した結果、急激に悪化するケースが実際に起きています。

現場での冷却手順

冷却は、救急隊が到着するまでの間にできる最も重要な処置です。手順は次の通りです。

  1. 涼しい場所へ移す:エアコンの効いた部屋、日陰、送風のある場所。なければ風を当てる
  2. 衣服を緩める:ヘルメット、安全靴、作業着のボタン・ベルトを外し、体表からの放熱を助ける
  3. 体を冷やす:首の側面、脇の下、鼠径部(太ももの付け根)の太い血管が通る場所にアイスパック・保冷剤・氷嚢を当てる。水をかけてうちわであおぐのも有効
  4. 意識がはっきりしていれば:スポーツドリンクや経口補水液を少しずつ飲ませる
  5. 意識が曖昧・自力で飲めない場合:無理に飲ませない(誤嚥リスク)。すぐに119番通報し、冷却を継続しながら救急車を待つ
現場での効果的な冷却部位と応急処置の手順
図4 現場での効果的な冷却部位と応急処置の手順

冷却用品(アイスパック、保冷剤、経口補水液など)は、作業場所から歩いて1分以内に取りに行ける場所に置くのが理想です。「倉庫の奥にある」「事務所に取りに行く」では間に合いません。休憩スペースに冷凍庫を設置し、保冷剤を常備するのが最も確実です。

救急要請と記録

救急車を呼ぶ際に伝えるべき情報を事前に整理しておくと、焦りの中でも対応が早くなります。

  • 場所(工場名、住所、最寄りの出入口、構内の案内方法)
  • 人数と状態(意識の有無、体温が測れれば体温、症状)
  • 発生時刻と作業内容
  • 既に行った処置

守衛や受付に「救急車を誘導する手順」を共有しておくと、到着後の動きが数分早くなります。

発生後は、再発防止のために記録を残すことが重要です。発生日時、場所、WBGT値(測れていれば)、作業内容、当日の体調、休憩・水分補給の状況、症状の経緯、対応内容、搬送の有無、回復状況などを記録様式に沿って残します。この記録は、原因分析と対策の見直しに直結するだけでなく、労基署からの調査や労災申請の際にも必要になります。


現場で再現しやすい改善事例

ここまで体系的に解説してきましたが、最後に「実際にどんな改善で効果が出るのか」を、現場で再現しやすい事例の形で紹介します。特別な設備投資をしなくても始められるものから、設備導入と組み合わせて成果を出した例まで、レベル別に整理します。

事例1:WBGT掲示+休憩ルール化で重症者ゼロを達成(金属加工工場)

以前は「暑いと感じたら休む」という曖昧なルールで運用しており、毎年1〜2名の救急搬送が発生していた工場の例です。WBGT計を主要3か所に設置し、値に連動した休憩ルール(28以上で45分/15分、31以上で30分/15分)を導入。さらに朝礼で当日のWBGT予測と注意事項を共有する運用に切り替えたところ、翌シーズンから重症搬送がゼロになりました。設備投資はWBGT計3台とホワイトボードのみで、数万円規模の改善です。ポイントは、「ルールにしたこと」で管理者も作業者も判断に迷わなくなったことです。

事例2:搬入口のカーテン設置+動線変更で空調効率が大幅改善(食品工場)

冷蔵・冷凍設備がある一方で、搬入口が頻繁に開閉され、工場内の温度が安定しない状態が続いていました。ビニールカーテンの設置と、搬入動線の見直し(開閉回数を減らすルート変更)を行ったところ、空調の効きが改善し、搬入口付近のWBGTが2〜3ポイント低下。既設の空調を増強せずに済んだため、ランニングコストの増加もありませんでした。

事例3:体調申告+声かけ運用で”隠れ不調”を早期発見(物流倉庫)

暑さに関する体調不良を申告しづらい雰囲気があり、倒れてから気づくケースが繰り返されていました。体調チェックシート(3項目:睡眠・朝食・自覚症状)を朝礼で記入し、リーダーが一言声をかける運用を始めたところ、「実は昨日あまり寝られなかった」「下痢気味」といった申告が増え、事前に軽作業へ配置転換するケースが生まれました。導入コストはほぼゼロで、運用の工夫だけで予防の質が上がった例です。

事例4:スポットクーラー+大型扇風機の「配置最適化」でWBGT低減(自動車部品工場)

スポットクーラーを5台導入したが「涼しくならない」という声があった工場で、配置と排熱処理を見直した事例です。排熱ダクトを屋外に出し、スポットクーラーの吹き出し方向を作業者の胸〜頭部に合わせ、大型扇風機を補助的に使って気流を作ったところ、対象エリアのWBGTが2ポイント以上低下しました。同じ台数でも、配置と排熱の処理で効果がまったく変わることを示す好例です。

事例5:上屋テントの設置で屋外作業エリアの暑熱を遮断(鉄鋼関連工場)

資材置き場や搬入路など屋外での作業が多く、夏季の直射日光と照り返しでWBGTが高止まりしていた工場で、作業エリアに上屋テントを設置。日陰を確保したことで、テント直下の体感温度が大きく下がり、該当エリアのWBGTも数ポイント改善しました。建物工事に比べて工期が短く、必要に応じて移設や増設がしやすいため、エリアごとに段階的に広げた点も、現場の負担を抑えながら効果を出したポイントです。

上屋テントで「暑さの根本原因」を断つ
直射日光や輻射熱の遮断は、スポットクーラーや扇風機では限界があります。上屋テントなら、日陰を構造的に確保しながら、雨対策・作業性改善も同時に実現。膜構造建築歴30年のベテランが多数在籍するストラクトが、設計から施工まで一気通貫でサポートします。建ぺい率などの複雑な要件整理もお任せください。

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よくある質問(FAQ)

Q. 工場の熱中症対策にはどのくらいの費用がかかる?

対策の内容によって大きく異なります。WBGTの見える化+休憩ルール整備なら数万円程度、スポットクーラーやミスト扇風機の導入は1台数万〜十数万円、遮熱塗装や上屋テント設置などの設備投資は規模に応じて数十万〜数百万円が目安です。まずは低コスト運用(WBGT計・ルール・教育)から始め、効果を見ながら段階的に設備投資に進めるのが失敗しにくいアプローチです。

Q. WBGTの測定器はどう選べばいい?

携帯型と設置型があります。現場巡回で複数箇所を点検するなら携帯型、常時モニタリングして注意喚起まで行うなら設置型が向きます。JIS規格に対応した製品を選ぶと精度が安定します。設置高さは作業者の頭部〜胸部付近が推奨です。

Q. 2025年の義務化で、違反すると罰則はある?

労働安全衛生規則に基づく措置が求められる場面で未整備・未実施があれば、是正勧告や行政指導の対象になり得ます。罰則の適用は個別事情によりますが、まずは「報告体制」「対応手順」「関係者への周知」の3点を整備しておくことが、リスクを下げる最も確実な方法です。

Q. 上屋テントは熱中症対策として効果がある?

屋外に近い荷捌き場や資材置き場では、直射日光の遮断だけでもWBGTが数ポイント下がるケースがあります。上屋テントは日陰を構造的に確保でき、雨対策にもなるため、暑さ対策と作業性改善を同時に進められます。建物工事より工期が短く、移設・増設がしやすい点も工場現場に向いています。


まとめ:工場の熱中症対策は「仕組み」で守る

工場の熱中症対策は、グッズを買い足す話でも、「気をつけましょう」で終わる話でもありません。現場で人を守り続けるには、予防と初動を仕組みとして回すことが不可欠です。

この記事で解説した内容を、最後にもう一度整理します。

  • 全体像:作業環境管理・作業管理・健康管理・教育・応急処置の5本柱で捉え、最優先は重篤化防止
  • 基礎知識:熱中症は気温だけでなく湿度・輻射熱・気流・作業強度・服装の組み合わせで起きる
  • 義務化対応:2025年6月施行の規則改正で、報告体制・対応手順・周知の整備が事業者に求められる
  • WBGT活用:測定→判断基準→行動ルールまでつなげて初めて機能する
  • 設備改善:遮熱・排熱・冷却の優先順位を見極め、試験導入→本導入で失敗を減らす
  • 作業管理・健康管理:休憩ルール・水分補給・体調申告・暑熱順化を工程設計に組み込む
  • 教育:知識よりも「行動」に落とし込み、応急処置のロールプレイで初動力を上げる
  • 応急処置:症状を見極め、冷却を止めず、迷ったら重い方で対応。記録は再発防止の基盤
  • 支援制度:補助金・助成金・税制優遇を早めに調べ、設備投資の初期負担を下げる

熱中症対策は、やるべきことが多いように見えますが、一度に全部を完璧にする必要はありません。まずは「WBGTを測る」「休憩ルールを決める」「応急処置の手順を周知する」「報告体制を1枚にまとめる」という4点から始めるだけでも、現場のリスクは確実に下がります。

大切なのは、「暑いのは仕方ない」で止まらず、仕組みとして一歩ずつ改善を積み重ねることです。この記事が、工場の現場で熱中症から人を守るための実務の一助になれば幸いです。

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