2021年以降、建設業界は資材価格の歴史的な高騰に直面しており、エネルギー価格の上昇やウッドショックの影響により、コンクリートや木材、鋼材など幅広い建材の価格が急激に上昇しています。この状況は、建設会社の利益を圧迫し、工事費用の増加や納期の遅延など、業界全体に大きな影響を与えています。

建材価格高騰の主な要因

建材価格に影響を与えている主要因

  • ウッドショック
  • アイアンショック
  • エネルギー価格の上昇
  • 人件費の高騰
  • ロシア・ウクライナ戦争の影響

ウッドショック

ウッドショックは2021年に始まり、木材価格を急上昇させました。主な原因として、新型コロナウイルスによる住宅需要の増加、輸送コンテナ不足、ロシアのウクライナ侵攻に伴う制裁が挙げられます。木材価格は2021年末にピークを迎えた後、徐々に下がりましたが、2024年6月現在でもウッドショック前の水準には戻っていません。特に合板や丸太は高止まりしており、建設業界に影響を与え続けています。国産材の利用や突板化粧板の活用で影響を抑える対策が進んでいます。

アイアンショック

アイアンショックは、鉄鋼製品の価格が急騰する現象を指します。2021年以降、鉄鋼価格は急上昇し、建設業界に大きな影響を及ぼしています。主な原因は、中国のインフラ投資の増加と世界的な鉄鋼需要の増加です。鉄骨の価格は2020年以前の1トンあたり約6万円から、2021年には約12万円に倍増しました。この高騰は長期化する可能性が高いとされ、アイアンショックはウッドショックと共に建設コストを押し上げ、工期遅延や計画見直しを迫っています。

エネルギー価格上昇の影響

2021年以降、世界のエネルギー価格上昇は日本経済に影響を与えています。原油や天然ガス、石炭の価格上昇により、電気料金や燃料費が急騰し、多くの産業に影響を及ぼしています。特に、鉄鋼や化学製品などのエネルギー多消費産業では、生産コストの増加が顕著です。企業調査では、約9割の企業がエネルギー価格上昇の影響を受け、約1割が事業継続に不安を感じていると報告されています。この状況は建設業界にも波及し、建材価格や工事費用の増加につながり、業界全体の収益性に影響を与えています。

人件費の高騰

建設業界の人件費上昇の主な要因は、労働人口の減少と最低賃金の引き上げです。総務省統計局によると、15~64歳の生産年齢人口は平成7年をピークに減少し続け、平成30年には7545万人に落ち込んでいます。この人材不足で企業間の競争が激化し、待遇改善が求められています。さらに、最低賃金の引き上げも人件費上昇に影響しています。特に建設業界では技能を持った人材の不足が顕著で、高賃金を提示する必要があります。これらが人件費上昇を招き、企業経営に影響を与えています。

ロシア・ウクライナ戦争の影響

ロシアのウクライナ侵攻は、世界経済に大きな影響を与えています。エネルギー価格の高騰、食料供給の混乱、サプライチェーンの寸断が主な影響です。日本では電気料金や食料品の価格が上がっています。世界的には、GDP成長率の低下やインフレの上昇が懸念されています。特にウクライナの穀物供給不安は食料価格を押し上げ、中東やアフリカの発展途上国に影響を与えています。欧州を中心とした対ロシア制裁は、ロシア経済に打撃を与え、グローバル経済の不確実性を高めています。この状況は建設業界を含む多くの産業に波及し、資材価格の上昇や事業計画の見直しを余儀なくされています。

建材価格高騰の見通し

建材価格の高騰は2024年以降も継続する見通しです。国土交通省の調査によると、主要建設資材の価格動向は「横ばい」となっていますが、需給は「均衡」状態にあり、在庫状況も「普通」とされています。しかし、円安の進行や電力料金、人件費の上昇などが要因となり、幅広い資材で価格上昇が続いています。特に、生コンクリートやセメントなどの値上げが表明されており、今後も資材価格の上昇が続くと見込まれています。さらに、2024年問題として技能労務者不足や輸送力確保の課題が指摘されており、これらへの対応には相応のコスト負担が必要となります。建設業界は、これらの課題に加えて脱炭素化への投資や担い手確保・育成など、多くの課題に直面しており、資材価格の高止まりは当面続く可能性が高いと予測されています。

建材価格高騰への対応策

建材価格の高騰に対応するため、建設業界では様々な対策が講じられています。以下に主な対応策をリストアップします

  • 早期発注と在庫確保
    • 資材の早期発注や先行発注を行い、価格上昇前に必要な資材を確保する
    • 在庫の適切な管理と余裕を持った発注計画の策定
  • 代替材料の使用
    • 高騰している資材の代替となる材料を探し、活用する
  • 設計・工法の見直し
    • コスト削減につながる設計変更や工法の見直しを行う
    • 例えば、木造建築への転換や、プレハブ工法の採用
  • 予備費の設定
    • 基本計画段階で予備費を見込んだ建設予算を設定し、価格変動リスクに備える
  • 政府支援の活用
    • 政府や業界団体による支援策を積極的に活用する
    • 例えば、輸入規制の見直しや国内生産促進策の利用

これらの対策を組み合わせて実施することで、建材価格高騰の影響を軽減し、事業の継続性を確保することが重要です。

おわりに

建材価格の高騰は、建設業界において大きな挑戦をもたらしています。しかし、この状況に対して適切な対応策を講じることで、プロジェクトのコストを抑え、計画を成功に導くことが可能です。早期の発注や代替材料の使用、設計の見直しなど、さまざまな対策を組み合わせることで、高騰する建材価格に柔軟に対応できるでしょう。

今後も市場の動向を注視し、最新の情報をもとに適切な戦略を立てることが重要です。建設計画の成功は、こうした挑戦にどう対応するかにかかっています。ぜひ、本コラムで紹介した対策を活用し、価格高騰という逆風の中でも前進していただければと思います。