建設プロジェクトの発注方式は、「設計施工分離方式」と「設計施工一貫方式」の2つに大別されます。これらには明確なメリット・デメリットがあり、同じ建物をつくるにしても、コストやスケジュールが大きく変わります。
しかし、自分の建物にどちらの発注形式が向いているかわからない方も多いことでしょう。そこで、今回は「設計施工分離方式」と「設計施工一貫方式」の特徴を解説します。後半では、物流施設や倉庫の建設に「設計施工一貫方式」がおすすめできる理由を紹介するので、参考になさってください。
- 1. 「設計施工分離方式」 高い透明性を実現できる発注方式
- 1.1. 設計施工分離方式のメリット
- 1.1.1. プロセス・価格の透明性を高められる
- 1.1.2. 「質の高い設計」と「安価な施工」を両立しやすい
- 1.1.3. 高い品質を期待できる
- 1.2. 設計施工分離方式のデメリット
- 1.2.1. プロジェクトのスケジュールが長くなる
- 1.2.2. 手続きや方針決定の手間が増える
- 1.2.3. 不具合などの補償に時間がかかる
- 2. 「設計施工一貫方式(デザインビルド方式)」 スピーディーに高性能な建物を実現できる発注方式
- 2.1. 設計施工一貫方式のメリット
- 2.1.1. プロジェクトのスケジュールを短縮できる
- 2.1.2. コストを早期に把握できる
- 2.1.3. 設計者と施工者の知見を統合し、総合的によい建物を実現できる
- 2.2. 設計施工一貫方式のデメリット
- 2.2.1. 価格の不透明感を感じやすい
- 2.2.2. 建設業者の選択肢が限られる
- 3. 物流施設・倉庫建設におすすめの発注方式は「設計施工一貫方式」
- 3.1. 使いやすい施設を実現できる
- 3.2. スムーズに不具合に対応できる
- 3.3. 建物を早く実装できる
- 3.4. 事業計画を立てやすい
- 4. ストラクトの倉庫建設スキーム
- 5. おわりに
「設計施工分離方式」
高い透明性を実現できる発注方式
設計施工分離方式とは、「設計」と「施工」をそれぞれ別の会社に発注する方式のことです。「設計」とは、条件や要件を考慮してプランを検討し、建築物の仕様や性能を設計図書にまとめることを指します。一方、「施工」とは、設計図書をもとに建築物をつくることです。設計施工分離方式では、建築の2大プロセスである「設計」と「施工」を別々の会社に発注します。プロセス・価格の透明性を高められるため、公共工事では、原則として設計施工分離方式が採用されています。
設計施工分離方式のメリット
設計施工分離方式のメリットは、以下のとおりです。
- プロセス・価格の透明性を高められる
- 「質の高い設計」と「安価な施工」を両立できる
- 高い品質を期待できる
プロセス・価格の透明性を高められる
設計施工分離方式では、十分な時間を確保して「質の高い設計」を実施したあとに、複数の施工会社で競争入札を行ってもらいます。建設で最もコストに影響のある施工プロセスにおいて競争原理を働かせることでコストダウンを図ることができ、「質の高い設計」と「安価な施工」を両立しやすい発注方式です。
「質の高い設計」と「安価な施工」を両立しやすい
雨や紫外線に配慮して室内に荷捌き場を設ける場合、天井や柱が干渉してトラックやフォークリフトの動線を確保できないことがあります。当初の計画では問題なくても、事業の拡大によって使用するトラックやフォークリフトが大きくなることも考えられるので、余裕を持って計画するようにしましょう。適切な動線を確保できれば、スムーズに荷役作業を進められます。
高い品質を期待できる
日本の建設プロジェクトでは、一般的に設計者がそのまま工事監理を行います。工事監理とは、工事が設計図書のとおりに実施されていることを確認する業務であり、品質を確保するうえで非常に重要です。設計施工分離方式では、設計者と施工者が別の会社なので、設計者が工事監理を行う場合でも第三者の工事監理者として機能し、高い品質を期待できます。
設計施工分離方式のデメリット
設計施工分離方式のデメリットは、以下のとおりです。
・プロジェクトのスケジュールが長くなる
・手続きや方針決定の手間が増える
・不具合などの補償に時間がかかる
プロジェクトのスケジュールが長くなる
設計施工分離方式では、施工者の入札や、設計者と施工者による入札後のデザイン・仕様の調整といった作業が発生し、プロジェクトのスケジュールが長くなる傾向があります。また、施工中に変更が生じた場合には、「発注者と設計者」「設計者と施工者」の協議をそれぞれまとめる必要があり、やはり多くの時間が必要です。
手続きや方針決定の手間が増える
設計施工分離方式では、設計事務所と施工会社の2社と契約を行うため、手続きの手間が増えます。それに伴い、手続きを完了するまでに多くの時間がかかるので、迅速に物事を進めたいときには煩わしさを感じるかもしれません。
また、方針決定が難しくなることもデメリットのひとつです。設計施工分離方式では、建築主・設計事務所・施工会社の3社が納得のいく方針を決める必要があります。そのため、特にコストに関する打ち合わせでは、方針決定が難しくなる傾向があります。
不具合などの補償に時間がかかる
不具合などに対する補償を受ける場合、設計と施工のどちらに責任があるのかを明らかにしなければいけません。しかし、設計仕様が悪いのか、工事にミスがあったのかなどを明らかにするのは、ときに非常に難しく、補償を受けるまでに時間がかかってしまうことがあります。
「設計施工一貫方式(デザインビルド方式)」
スピーディーに高性能な建物を実現できる発注方式
設計施工一貫方式(デザインビルド方式)とは、「設計」と「施工」を1社に発注する方式のことです。設計施工分離方式と比べて設計から施工までの進行がスムーズなので、スピーディーに建設を進められます。設計施工が分離される以前に活躍していた優秀な棟梁は、自分で設計した建物を自らつくっていました。これはまさに、設計施工一貫方式の一例です。棟梁は、施工者だからこそ知っている材料のクセや優れた納まりを設計に反映することで、快適で頑丈な建物を実現していたのです。設計施工一貫方式の優位性がよくわかる例といえるでしょう。
設計施工一貫方式のメリット
設計施工一貫方式のメリットは、以下のとおりです。
- プロジェクトのスケジュールを短縮できる
- 工事費を早期に把握できる
- 設計者と施工者の知見を統合し、総合的によい建物を実現できる
プロジェクトのスケジュールを短縮できる
設計施工一貫方式では、施工会社の入札がないので、設計から施工への移行をスムーズに進められます。また、設計と同時並行で施工計画を進められるので、短工期を実現できる施工計画を短い期間でまとめることが可能です。
コストを早期に把握できる
設計施工一貫方式では、設計段階の見積もりが、施工を十分に考慮した内容になるので、早い時期から精度の高い見積もりを受け取れます。一方、設計施工分離方式では、設計者が十分な施工知識を有していないと、施工会社の入札のときに大きなコストアップを発生することがあります。
設計者と施工者の知見を統合し、総合的によい建物を実現できる
前述の棟梁の例からもわかるとおり、高度な施工の知識があるからこそ、優れた設計を行えるものです。設計施工一貫方式に対応している会社は、「設計者」と「施工者」の知識・技術を内包しており、お互いに高め合いながら総合的に優れた建物を実現しています。
設計施工一貫方式のデメリット
・価格の不透明感を感じやすい
・建設業者の選択肢が限られる
価格の不透明感を感じやすい
設計施工一貫方式は、設計から施工までの間に第三者が入らないので、価格の不透明感を感じやすくなります。この不透明感を解消するため、大きなプロジェクトでは、発注者の立場に立ってプロとしてスケジュール・コスト・品質などを管理する「コンストラクションマネジャー」を採用するケースが増えています。
建設業者の選択肢が限られる
設計施工一貫方式に対応できる建設業者の選択肢が限られていることも、デメリットのひとつです。一般的な建物であれば「ゼネコン」、家であれば「ハウスメーカー・ハウスビルダー・工務店」が挙げられます。テントやプレハブなどの特殊な構造物では、メーカーや専門業者が設計施工一貫方式でサービスを提供しているケースがあります。
物流施設・倉庫建設におすすめの発注方式は「設計施工一貫方式」
物流施設や倉庫の建設におすすめの発注方式は、「設計施工一貫方式」です。
ここでは、その理由を解説します。
使いやすい施設を実現できる
物流施設・倉庫の設計施工一貫方式に対応している建設会社では、設計者と施工者のそれぞれが、物流施設や倉庫に特化した知見を蓄積しています。不具合の傾向や、メンテナンスのしやすさなど、施工者だからこそわかる知見が設計に反映されており、長く快適に使用できる施設を実現可能です。
スムーズに不具合に対応できる
設計施工一貫方式では、責任の所在が設計者であっても施工者であっても、対応するのは同じ会社です。スムーズな連携で迅速に不具合に対応してもらうことができるので、事業への影響を最小限に抑えることができます。また、設計事務所と施工会社で責任の押し付け合いをすることがないので、補償交渉を進めやすい傾向があります。
建物を早く実装できる
前述のとおり、設計施工一貫方式のメリットは、プロジェクト全体のスケジュールを短縮できることです。市場の変化に対応するためにいち早く実装したい物流施設や倉庫は、常識的には難しいような短工期の工事を希望するケースもあるのではないでしょうか。そのような場合、設計と施工の連携が強い会社に設計施工一貫方式で依頼するのが、有力な選択肢です。
事業計画を立てやすい
設計施工一貫方式は、設計段階から工事を見据えた精度の高い見積もりやスケジュールを把握できるので、事業計画を立てやすいというメリットがあります。また、設計施工一貫方式の方が、着工後の設計変更への対応力が高いので、ギリギリまで間取りや仕様・性能に関する社内決定を遅らせることが可能です。もちろん、仕様などは早期に決まっていた方が、スムーズかつ無駄なコストが少ない工事を進められます。しかし、事業に対する影響が大きい仕様の判断に必要な時間をできるだけ長く確保できるのは、大きなメリットといえるでしょう。
ストラクトの倉庫建設スキーム
ストラクトが提供しているのは、「設計施工一貫(ワンストップ)方式」での倉庫建設です。お客様からの依頼に合わせ、経験豊富なプロのスタッフが、「提案力」「設計力」「施工管理力」「支援力」を活かし、最善案の倉庫建設プロジェクトを実現します。設計・施工だけでなく、建築基準法の専門知識が必要な確認申請のサポートなどにも対応しているので、「依頼」だけで安心して倉庫建設を進めることができます。
おわりに
それぞれが一長一短の「設計施工分離方式」「設計施工一貫方式」ですが、物流施設や倉庫の建設でおすすめなのは、「設計施工一貫方式」です。性能・コスト・スケジュールなど、多くの観点でメリットを感じられるでしょう。設計施工一貫方式に対応している会社は、設計・施工の両方に関する質問に答えてくれるため、多くの悩みが解決してくれるはずです。倉庫建設でお悩みの方は、まずは相談してみてはいかがでしょうか。