サステナブルな社会の実現は今や世界共通の課題となっており、企業は「SDGs」「ESG」といった環境に配慮した目標設定や活動を求められるようになっています。製造業や運輸業は、環境指標の代表格ともいえる「CO2(二酸化炭素)排出量」の業界別ランキングの上位に位置しており、環境施策で頭を抱えている事業者の方々も多いのではないでしょうか。
本記事では、施設建設における環境的な視点からみる「膜構造」の特徴やメリットについて解説します。膜構造建築物は、使い方によってさまざまな環境性能を発揮し、優れた省エネ性能を実現するだけでなく、従業員に働きやすい職場を提供するソリューションです。これから設備投資を考えている方はぜひご参考になさってください。
工場・倉庫で環境問題に取り組むべき理由
環境問題は非常に多岐にわたりますが、なかでも工場・倉庫と関連性が高いのは「地球温暖化」です。冒頭で述べたとおり、製造業と運輸業は温室効果ガスのひとつであるCO2の排出量が多い業界です。日本の「地球温暖化対策推進法」では2050年までのカーボンニュートラルの実現が明記されており、CO2削減に協力することは日本・世界・地球に貢献することに繋がります。
環境省の「企業責任と地球環境の保全」という資料では、「地球環境の保全を行うことは、企業の責任であり、成長と環境の両立を経営において実践する必要がある」とされています。そのためには「経営者のイニチアチブが不可欠」とも記載されており、事業者が率先して環境問題に取り組むことが大切です。
企業の信頼を守り続けるためには、環境問題に取り組むことがより一層重要になってくるでしょう。各業界のリーディングカンパニーは、既に目を光らせて環境アピールを探している状況です。「SDGs」「ESG」「CSR」といったキーワードをもとに環境施策を実施していきましょう。
膜構造の環境性能
日本膜構造協会は「環境に貢献する膜構造(以下、資料)」という資料を発行しています。この資料をもとに膜構造建築物の環境性能をみてみましょう。
省資源性
膜構造建築物は、厚さ1ミリ前後の膜材料と鉄骨フレームで構築されます。一般建築物のセメント・金属系外壁・屋根と比べると膜材料は非常に省資源です。また、膜材料は軽量であることから、それを支える鉄骨フレームも一般建築物と比べて少なく済みます。鉄鋼1トン当たりのCO2排出量は約2トンとされているため、膜構造を採用することでCO2削減に大きく貢献できることがわかりますね。
日射遮蔽性能
膜材料は熱を通しやすいですが、一方で高い反射率を有する材料です。資料では最大で約85%の太陽光・熱を反射するとされています。特に白色の膜は日射反射率が高く、優れた日射遮蔽・日射蓄熱低減性能を期待できるので環境対策に向いているといえるでしょう。
資料で紹介されている実験では、RC造の既存戸建て住宅の屋上に外皮膜を設置して日射量を実測しています。その結果、日射量が約80%低減され、屋上表面の温度が上がりにくいことが確認されました。
このことから、太陽熱を蓄熱しやすいアスファルトやコンクリートの上で作業する場合、上部に白色膜の屋根をかけることで夏場の熱中症リスクを減らせることがわかります。令和7年改正労働安全衛生規則に関する厚生労働省の「職場における熱中症対策の強化について」というパンフレットでも、熱中症リスクを高めるWBGT値(暑さ指数)を下げる方法として、「屋外の高温多湿作業場所においては、直射日光並びに周囲の壁面及び地面からの照り返しを遮ることができる簡易的な屋根等を設けること」が紹介されています。
関連コラム:【令和7年6月から対策義務化】工場における熱中症対策
断熱性能
膜材料は熱還流率が高いので、通常の使い方をすると一般建築物に比べて断熱性能が低くなってしまいます。しかし、膜を多重にして空気層を挟むことで断熱性能は著しく向上します。優れた日射遮蔽性能を有する膜材料を多重膜化することで、日射遮蔽性能と断熱性能を両立する建物外皮を実現することも可能です。
多重膜化により後述の透光性が低下するというデメリットがありますが、ETFEという新素材のフィルムを使って多重膜化させることで、透光性を維持しながら断熱性能を向上できることが明らかになっています。膜材料や機能を付加するコーティング材は年々進化しており、これからもさらなる性能向上が期待できるでしょう。
透光性
膜材料は太陽光・熱の優れた反射率を有する一方で、5~25%程度の透過率を持っているとされています。そのため、膜構造建築物の内部は自然光で明るさを確保することが可能です。柔らかい光の中で作業できる職場は、従業員にとって働きやすい環境を提供します。
ETFEフィルムは特に高い透光性を有しており、作物が成長するのに十分な太陽光を透過するとされています。加えて紫外線に強く外部環境への適応力も高いことから、農業分野でも注目を集めている素材です。
適切な膜材料やコーティング材を選択することで日射遮蔽効果・断熱性能・透光性などを調整できることも膜構造のメリットです。
膜構造で得られる環境効果
前章でご紹介した性能を活かすことで、膜構造はさまざまな環境効果を生み出します。地球や建物にどのようなメリットをもたらすかをみてみましょう。
ヒートアイランドの緩和
膜構造建築物の高い日射遮蔽効果および日射蓄熱低減によって期待されるのが、ヒートアイランド現象の緩和です。ヒートアイランド現象とは、熱を蓄熱しやすいコンクリートやアスファルトが都市部に集まることで、都市部が周辺の郊外に比べて高温になる現象です。地面や建物からの照り返しと直射日光を浴びることで、疲労感や倦怠感を覚えやすい環境になってしまいます。
工場や倉庫は、ヒートアイランド現象を和らげる緑化エリアを設けずに広い面積をアスファルトやコンクリートで覆ってしまう傾向があります。都市部で施設を運営する場合は、建物の屋根を膜材料のような高反射率の素材にすることでヒートアイランド現象の緩和に貢献することが可能です。
郊外の工場や倉庫でも、広い面積をアスファルトで舗装してしまうと施設一帯が高温になりがちです。光や熱を反射しやすい材料で屋根・壁をつくることで、WBGT値が高くなりにくい良好な作業環境を提供できるでしょう。
照明負荷の低減
膜構造建築物の大きな特徴は、自然光を程よく通すことで生み出される柔らかい空気感です。優しい太陽光は職場に温もりをもたらし、働きやすい環境をつくり出してくれます。
昼間は自然光の明るさだけで作業できるケースが多く、照明器具に頼る場合でも光を反射してくれるので少ない照明で十分な明るさを確保できます。透光性・高反射率という2つの特性が合わさり、建物の照明負荷を大きく低減できるのです。
冷房負荷の低減
建物の冷房負荷を低減したい場合は、二重膜構造を採用するのが効果的です。空気層によって熱還流抵抗が高まり、断熱性能が向上します。
二重膜構造を採用するのが難しい場合は、建物の外皮を膜でカバーしたり、膜ルーバーを設置したりするのがおすすめです。これらの手法を取り入れることで高い日射遮蔽効果と蓄熱低減効果を期待でき、冷房負荷を抑えられます。
CO2発生量の削減
膜構造建築物は前述のとおり省資源で建設できるため、CO2排出量を削減できます。一般建築物と比べると膜構造建築物のLCCO2(建設から廃棄までの全段階で排出されるCO2の総量)は約半分になるケースもあり、環境対策に大きく貢献できる構造物といえるでしょう。
CO2排出量が多い製造・運輸業でCO2削減をアピールできるのは、多くの事業者にとってうれしいポイントではないでしょうか。
地球・人に優しい工場・倉庫をつくるアイディア
ここでは、工場や倉庫で役立つ膜構造建築物をご紹介します。安く・早く建設できる膜構造建築物で、地球にも人にも優しい職場を実現しましょう。
CO2排出量・照明負荷を低減「テント建築」
膜構造で建物をつくりたい場合におすすめなのが「テント建築」です。
膜材料の軽さによりスリムな鉄骨フレームで建設することができ、CO2排出量の削減に貢献します。また、中柱がほとんどないので、内部は自由度が高く使いやすい空間になるのがメリットです。屋根や壁を透過して入ってくる自然光は、従業員満足度を高める柔らかい雰囲気を生むほか、照明負荷低減効果や、手元の視認性の高さによる生産性向上効果を実現します。


快適な作業環境で生産性向上「上屋テント」
屋外に屋根付きの作業場や保管場を用意したい場合には「上屋テント」がおすすめ。上屋テントは鉄骨フレームに膜屋根のみを取り付ける構造物で、大空間に屋根を架けられるのがメリットです。
手軽な構造物でありながら、雨除けや日除けができるほか、ウイングトラックが開閉できる高さを確保できます。屋外作業場のWBGT値を下げることもでき、快適な作業環境で生産性を向上させるのに効果的なソリューションです。
また、上部架構が軽量なので基礎を小さくすることができ、狭いスペースや既存建物に近接した位置にも建設することができます。環境負荷が大きい鉄筋コンクリート造の基礎が減るので非常に省資源であり、環境にも優しい構造物といえます。


おわりに
膜構造建築物は、環境負荷低減と快適な作業環境の実現を同時に叶える、これからの工場・倉庫にぴったりのソリューションです。日射遮蔽性能や透光性を活かし、冷房負荷や照明負荷を低減しながら働きやすい職場を実現しましょう。CO2排出量削減やヒートアイランド現象の緩和など、SDGs・ESG・CSRへの取り組みとしても有効な構造物なので、地球にも人にも優しい施設をつくりたいと考えている事業者の方は、ぜひ検討してみてください。まずは無料の概算見積もりと動線シミュレーションで、あなたのプロジェクトでの具体的な効果を確認してみませんか。
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