スピーディーな建設が可能なテント倉庫の屋根や外壁には、膜材料が用いられていることが特徴です。他の外壁材と比べて軽量で、取り扱いやすいだけでなく、重い建物ほど大きな水平力が採用する地震に対して有利になります。また、特殊なコーティングで高い耐久性を実現し、約7~10年の耐用年数を期待することができます。
テント倉庫には、防炎材料もしくは不燃材料としての膜材料を使用しますが、不燃材料が必要になる場合はコストが高くなる傾向です。しかし、不燃材料の採用の要否には専門的な判断が必要であり、説明を求めたくなる事業主も多いのではないでしょうか。
この記事では、防炎・不燃材料の概要や、不燃材料が必要になるケース、膜材料のその他の性能をわかりやすく解説します。テント倉庫の採用を検討している方は、ぜひご覧になってみてください。
- 1. テント倉庫の膜材料とは
- 2. 防炎・不燃材料としての膜材料
- 2.1. 防炎材料としての膜材料
- 2.2. 不燃材料としての膜材料
- 3. 膜材料のメリット・デメリット
- 3.1. 防炎材料のメリット・デメリット
- 3.2. 不燃材料のメリット・デメリット
- 4. 建築基準法(告示)で定められている生地の種類のフローチャート
- 5. 不燃材料としての膜材料が必要になる使用条件
- 5.1. 保管物の可燃性
- 5.2. 防火・準防火地域および22条区域
- 5.3. 床面積
- 5.4. 延焼のおそれのある部分
- 5.5. 膜材料を設置する部位
- 6. 防炎・不燃材料以外の膜材料の機能
- 6.1. 汚れ防止
- 6.2. 耐候性
- 6.3. 透光性
- 6.4. 遮熱性
- 6.5. 紫外線カット
- 7. おわりに
テント倉庫の膜材料とは
膜材料には、「優れた透光性」「軽量」「柔軟」という特徴があります。これらの特徴を活かし、「光を取り入れた柔らかな雰囲気の空間」「軽量ゆえの経済性」「曲線美のデザイン」などのメリットを実現することができます。(図1)
膜材料は、織物(基布)とコーティング材の複合材料であり、素材の組み合わせでさまざまな性能を発揮します。(図2)
最も大切なのが、火災に対する安全性に関わる防炎・不燃材料としての性能です。その他にも、「耐候性」「透光性」「遮熱性」などの性能があるので、テント倉庫の保管物に応じて適切な膜材料を採用することが大切です。
防炎・不燃材料としての膜材料
テント倉庫は、建築基準法や消防法に基づいて建設されます。建築基準法や消防法は、火災に対する安全性について厳しく基準を設けており、テント倉庫に用いる膜材料は、すべて防炎材料か不燃材料であることが定められています。法律との関係性についての詳しい説明は後に譲り、ここでは防炎・不燃材料の概要についてみていきましょう。
防炎材料としての膜材料
防炎材料とは、「燃えにくい」性質を持つ材料を指します。建築基準法で特段の定めがない限り、基本的にテント倉庫で使われるのは、防炎材料としての膜材料です。防炎材料は、炎や火元が接してもすぐには着火せず、着火したとしても炎や火元が離れれば自己消化します。そのため、火災発生時における周囲への燃え広がりを防ぎ、延焼を遅延することができます。
不燃材料としての膜材料
不燃材料は、建築基準法で定められた条件下で「燃えない」性質を持つ材料です。具体的には、「加熱開始後20分間」次の要件を満たすことが定められています。
- 燃焼しない
- 防火上有害な変形、溶融、き裂その他の損傷を生じない
- 避難上有害な煙又はガスを発生しない
不燃材料としての膜材料には、基布にガラス繊維織物が使用されています。これにより、炎が膜材料を燃え抜くことがなく、外部で発生した炎の侵入を防ぐことが可能です。
膜材料のメリット・デメリット
防炎・不燃材料としての膜材料の概要を把握したところで、両者のメリット・デメリットをみてみましょう。
防炎材料のメリット・デメリット
防炎材料としての膜材料のメリット・デメリットは以下のとおりです。
【メリット】
・安価である
・比較的伸びやすく、取り扱いやすい
【デメリット】
・建築基準法で指定されている部分では使用できない
不燃材料のメリット・デメリット
不燃材料としての膜材料のメリット・デメリットは以下のとおりです。不燃材料としての膜材料にはガラス繊維が練りこまれており、折ったり曲げたりしながら使う伸縮式テント倉庫のような用途には向いていないことに留意しておきましょう。
【メリット】
・建築基準法で指定されている部分に使用できる
・外部で発生した火災から保管物を守れる可能性がより高い
【デメリット】
・防炎材料としての膜材料に比べて高価
・比較的伸びにくい
・伸縮式テント倉庫では使用できない
建築基準法(告示)で定められている生地の種類のフローチャート
前述のとおり、建築基準法で不燃材料としての膜材料を使用しなければいけない部位が指定されています。ここでは、不燃材料としての膜材料を使用しなければいけないケースをフローチャート(図3)で分かりやすく示します。なお、フローチャートの分岐点になっている用語などについては、次節で解説するので、ご覧になってみてください。
不燃材料としての膜材料が必要になる使用条件
ここでは、前節のフローチャートの分岐点になっている用語や考え方について解説します。不燃材料が必要になるとコストが高くなる傾向にあるので、条件に当てはまる場合は留意しておきましょう。
保管物の可燃性
可燃物を保管する倉庫は、不燃材料としての膜材料を使用しなければいけないケースが増えます。以下に可燃・不燃性の保管物の例を紹介します。
- 不燃性の保管物:石・陶磁器・セメント版・鉄鋼・アルミニウム・金属・ガラスなど
- 可燃性の保管物:紙・木材・布・プラスチック・スチロールなど
防火・準防火地域および22条区域
都市計画法において、「市街地における火災の危険を防除するため定める地域」として、駅前などの密集地を「防火地域」、そこから少し離れたエリアを「準防火地域」と指定しています。また、建築基準法において、「通常の火災を想定した火の粉による建築物の火災の発生を防止するための、屋根を不燃材料等で造る等の防火上の規制が課される地域」として指令されているのが、「22条区域」です。22条区域は、都市計画法の準防火地域よりも駅から遠いエリアが指定されています。実際に建設を進めるときは、地域の行政庁もしくはテント業者に確認するとよいでしょう。
床面積
床面積によっても不燃材料としての膜材料を使用する必要がある部位が異なります。床面積を大きくすると、保管できる量は増える一方で、不燃材料を使用する範囲の増加などによりイメージ以上にコストが高くなるかもしれません。事業のスムーズな運営とコストを天秤にかけながら、適切な床面積を設定しましょう。特に、フローチャートの分岐点である100・500・1,000・3,000㎡を目安にするのがおすすめです。
延焼のおそれのある部分
建築基準法では、「延焼のおそれのある部分」が定められており、該当する部分では基本的に不燃材料を採用する必要があります(図5)。
敷地の端や他の建物と近接した位置に建設する場合は、留意しておきましょう。緩和規程などもあるので、専門家の判断が必要です。
膜材料を設置する部位
一部のケースでは、屋根にのみ不燃材料としての膜材料が求められています。
防炎・不燃材料以外の膜材料の機能
テント倉庫の膜材料は、防炎・不燃材料以外の機能も備えています。ここでは、代表的な機能を紹介するので、事業に適したテント倉庫を計画するための参考にしてみてください。
汚れ防止
「汚れ防止」機能を有する膜材料は、汚れが付きにくい表面処理が施されています。膜材料の汚れの原因は、油脂分の付着や、静電気・風によるほこりの付着などがありますが、防汚処理加工の種類によって適切に対策することが可能です。
耐候性
膜材料は、太陽光、雨、風、排気ガス、工場の化学物質などにより、徐々に経年劣化していきます。耐候性に優れた膜材料であれば、通常より厳しい環境下でも想定した耐用年数を期待できます。
透光性
テント倉庫の魅力のひとつは、太陽光を透過することによって生まれる柔らかい雰囲気の空間です。透光性に優れた膜材料を採用すると、昼間は室内が自然と明るくなるため、節電効果を期待することもできます。
遮熱性
遮熱性に優れた機能を付加した膜材料は、外部からの熱の侵入を防ぎ、室内の気温上昇を防ぐことができます。製品の仕様や環境に依りますが、通常の膜材料と比べ、夏場の室内の気温を3~5℃抑えられるケースもあります。保管物が熱に弱い場合には有用なオプションであるといえるでしょう。
紫外線カット
膜材料によっては紫外線を効率よく遮断してくれます。膜材料の色合いによって紫外線をカットする効果が異なるので、紫外線を嫌う場合は色合いにも留意しておきましょう。
おわりに
テント倉庫の膜材料のイニシャルコストに大きな影響を与えるのは、不燃材料としての膜材料の採用要否です。不燃材料としての膜材料を採用しなければいけないケースを避けることで、経済的な計画ができます。床面積の設定など、計画初期から意識できる経済設計のポイントもあるので、参考にしてみてください。